この記事からわかること
- 日本企業による米国IPOが、上場後にどのように市場で再評価されてきたか
- IPO時の期待(公募価格・初期評価)と、その後の市場評価の乖離
- 株価水準だけでは把握できない「流動性」の重要性
- 市場評価がNASDAQの上場維持基準とどのように関係するか
- この記事からわかること
- はじめに
- 分析対象とデータの前提
- 参考:NASDAQの上場維持基準
- 最低株価要件(いわゆる $1.00 ルール)
- 米国上場日本企業10社の市場評価
- ■ Kura Sushi USA(KRUS)
- ■ MEDIROM Healthcare Technologies(MRM)
- ■ Pixie Dust Technologies(PXDT)
- ■ Yoshitsu(現:Tokyo Lifestyle Co., Ltd.)
- ■ Syla Technologies(SYT)
- ■ HeartCore Enterprises(HTCR)
- ■ Lead Real Estate(LRE)
- ■ SBC Medical Group Holdings(SBC)
- ■ AERWINS Technologies(AWIN)
- ■ Coincheck Group(CNCK)
- 流動性に関する補足(重要)
- 本稿から読み取れる市場トレンド
- 1. 上場時評価を上回っている企業は1社のみ
- 2. 10社中3社がNASDAQでの上場を終了している
- 3. 最低株価要件が経営上の論点となっている企業
- 4. So What:上場後の再評価分岐点は3つの要素に集約
- 本稿のまとめ
- 次回予告
- 【著者プロフィール】
はじめに
第1回では、日本企業が選択し得る米国上場の形態と、その制度的な前提条件を整理しました。本稿ではその続編として、実際に米国上場を果たした日本企業が、上場後にどのような市場評価を受けてきたのかを、公開情報に基づく事実と数値から確認します。
本稿の目的は、特定の企業の成否を評価することではありません。本稿が、経営者・CFOの皆様のIPO戦略検討の一助となれば幸いです。
分析対象とデータの前提
- 分析対象:公開情報に基づき確認可能な日本企業10社
- 基準日:2025年12月31日
- 当該日時点で取引が確認できない銘柄については、最後に確認可能な取引日の情報を使用
- 基準日株価及び出来高は NASDAQ のヒストリカルデータに基づく実数値
なお、本稿では「上場時点の価格指標」を以下のように整理しています。
- 伝統的IPO/ADS:公募価格(IPO価格)
- De-SPAC:事業結合完了後の初日取引価格(Initial Trading Price)
参考:NASDAQの上場維持基準
最低株価要件(いわゆる $1.00 ルール)
NASDAQでは、株価が一定期間(通常は30営業日以上)1ドル未満で推移した場合、改善期間が付与され、改善が見られない場合には上場廃止の対象となる可能性があります。
米国上場日本企業10社の市場評価
(基準日:2025年12月31日)
※以下は公開情報に基づく整理であり、投資判断を目的とするものではありません。
■ Kura Sushi USA(KRUS)
- 上場形態:米国子会社IPO
- 上場時期:2019年8月
- IPO価格:$15.00
- 基準日株価:$52.33
- 出来高(12/31):271,668株
- 上場状況:NASDAQ
■ MEDIROM Healthcare Technologies(MRM)
- 上場形態:ADS(F-1)
- 上場時期:2020年12月
- IPO価格:$15.00
- 基準日株価:$1.94
- 出来高:53,317株
- 上場状況:NASDAQ(最低株価要件の注意水準)
■ Pixie Dust Technologies(PXDT)
- 上場形態:ADS(F-1)
- 上場時期:2023年
- 上場時株価:$15.00
- 2024年11月にNASDAQから自主的に上場廃止
- 2025年末時点で取引は確認されていません
■ Yoshitsu(現:Tokyo Lifestyle Co., Ltd.)
- 上場形態:ADS(F-1)
- 上場時期:2022年
- 2024年に社名変更
- IPO価格:$4.00
- 基準日株価:$3.07
- 出来高:10,413株
- 上場状況:NASDAQ
■ Syla Technologies(SYT)
- 上場形態:ADS(F-1)
- 上場時期:2023年
- 上場時株価:$4.00
- 2025年5月にNASDAQから自主的に上場廃止
- グループ再編により完全子会社化
■ HeartCore Enterprises(HTCR)
- 上場形態:ADS(F-1)
- 上場時期:2022年
- IPO価格:$5.00
- 基準日株価:$0.3052
- 出来高:283,781株
- 上場状況:NASDAQ(最低株価要件抵触水準)
■ Lead Real Estate(LRE)
- 上場形態:ADS(F-1)
- 上場時期:2023年
- IPO価格:$4.00
- 基準日株価:$1.57
- 出来高:210,039株
- 上場状況:NASDAQ(最低株価要件の注意水準)
■ SBC Medical Group Holdings(SBC)
- 上場形態:De-SPAC
- 上場時期:2024年
- 上場時株価:約$10
- 基準日株価:$4.31
- 出来高:35,185株
- 上場状況:NASDAQ
■ AERWINS Technologies(AWIN)
- 上場形態:De-SPAC
- 上場時期:2023年
- 上場時株価:約$10
- 2024年にNASDAQ上場廃止
- 2025年末時点で取引は確認されていません
■ Coincheck Group(CNCK)
- 上場形態:De-SPAC
- 上場時期:2024年
- 上場時株価:約$10
- 基準日株価:$2.52
- 出来高:52,947株
- 上場状況:NASDAQ
流動性に関する補足(重要)
NASDAQにおける市場評価や上場維持の判断は、単日の出来高ではなく、一定期間(30〜90営業日程度)における平均的な流動性を前提に行われます。
本稿では分かりやすさの観点から基準日の出来高を示していますが、実務上重要なのは、
- 機関投資家が継続的に参入可能な取引量が確保されているか
- 価格形成が特定の取引に左右されにくい市場環境が維持されているか
という点です。流動性が十分に確保されない場合、市場評価の回復そのものが構造的に難しくなる傾向があります。
本稿から読み取れる市場トレンド
1. 上場時評価を上回っている企業は1社のみ
上場時の価格指標を、基準日時点で上回っている企業は10社中1社(KRUS)のみです。
残る企業の多くでは、上場時に株価に織り込まれた成長期待が、上場後の業績開示と市場取引を通じて再評価され、結果株価下落となっています。
これは上場形態の違いによるものではなく、米国市場における共通の評価プロセスと捉えることができます。
2. 10社中3社がNASDAQでの上場を終了している
調査対象10社のうち、3社がすでにNASDAQでの上場を終了しています。
その理由は一様ではなく、事業戦略やグループ再編に伴う戦略的判断も含まれます。
重要なのは、米国上場が一度達成すれば自動的に継続できるものではなく、上場を続ける合理性が継続的に問われる市場であるという点です。
3. 最低株価要件が経営上の論点となっている企業
基準日近傍において、最低株価要件に照らして注意水準または抵触水準に位置する企業は複数存在します。
これらの事例に共通するのは、株価水準そのものよりも、流動性の低下や投資家層の限定化です。
十分な流動性が確保されない場合、市場評価の修正が進みにくくなり、制度上の制約が経営上の現実的な論点として顕在化します。
4. So What:上場後の再評価分岐点は3つの要素に集約
以上を総合すると、日本企業による米国IPOは、上場後12〜24か月の間に、市場から明確な再評価を受ける傾向があります。その分岐点は、以下の3点に集約されます。
- 継続的な流動性を確保できているか
- 四半期決算開示やIR活動を安定的に運用できているか
- 米国市場に上場し続ける合理性を説明し続けられるか
これらは、事業内容そのものに加えて、上場後の経営体制と説明責任の設計が問われていることを示しています。
本稿のまとめ
本稿では、日本企業による米国IPO後の市場評価について、10社の事例を基に整理しました。その結果、米国IPOは上場の瞬間がゴールではなく、上場後に始まる継続的な評価プロセスであることが、客観的な事実として確認できます。
上場時の評価を中長期的に維持できている企業は限定的であり、多くの企業では上場後の実績開示、流動性、IR運用を通じて、市場から再評価を受けています。
日本企業が米国市場に挑戦する際には、上場可否だけでなく、上場後に評価され続けるための体制をどこまで設計できているかを含めて検討することが不可欠と言えるでしょう。
次回予告
本稿で確認したように、日本企業による米国IPOでは、上場後12〜24か月の間に、市場評価が大きく再構築されるケースが多く見られます。この再評価は、必ずしも不祥事や急激な業績悪化といった明確なイベントを伴って起きているわけではありません。多くの企業は事業を継続し、一定の売上や顧客基盤を維持しています。
それにもかかわらず、株価は低位にとどまり、出来高は徐々に細り、結果として上場維持基準や、米国市場に上場し続ける合理性そのものが経営上の論点として浮上してきます。
ここで改めて問うべきなのは、「なぜこのような評価の再構築が起きるのか」という点です。
第2回で見えた結果は、株価水準そのものというよりも、「市場がその企業を評価し続けられる状態が維持されているかどうか」に強く左右されているように見えます。
米国市場では、何が「評価可能な状態」を支えており、それが失われるとき、何が起きているのでしょうか。
次回は、米国IPOにおける説明責任の考え方を起点として、この評価の再構築が生まれる実務構造を整理します。
【お問い合わせ】
上場先市場の選択(米国NASDAQ市場と東証)や、米国展開にあたってなど、米国上場をご検討中の企業・関係者の方がいらっしゃれば、お気軽にご連絡ください。
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※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資行動や上場を推奨するものではありません。
【著者プロフィール】
著者:遊馬 健|USCPA / J-Nexia取締役
J-Nexia共同創業者 / USCPA(米国公認会計士)。
Deloitte US などで約15年間、米国にて監査・アドバイザリー業務に従事。
NASDAQ上場企業での勤務経験や、IPO / M&A を目指すテック企業支援を多数経験。

February 2, 2026 — J-Nexia株式会社
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